【弁理士試験】 論文式試験の答案はどのように採点・評価されているのか?

【弁理士試験】 論文式試験の答案はどのように採点・評価されているのか?

「採点のブラックボックス」のフタが開いたことが(僕が知っている限り)1度だけあります

2022/9/26

「長かった」と感じた7月・8月が幻想だったかのように、9月は早々と過ぎ、あっという間に26日になってしまいました
今日は論文式試験の合格発表で、今年の論文式試験の合格者は179名でした
受験者が655名だったので合格率は27.3%ですね
合格率だけを見ると、比較的高めの年だったと言えそうです (青でハイライトしているのは合格率が25%を下回った年)

論文式試験の答案の評価方法について

論文式試験の答案の評価はブラックボックスの部分も多いですが、このブラックボックスのフタが開いた時が僕が知る限り1度だけあります
というのも、

「前弁理士試験考査委員からのアドバイス」

と題して、3名の前試験委員が弁理士試験について言及した記事が受験雑誌に掲載されたことがありました (法学書院『弁理士受験新報』25号2007年1月発行)
この記事は試験委員のご経験のある方々が試験委員だった立場で弁理士試験の論文式試験について評価方法も含めて言及されている、(僕が調べた範囲では)唯一の文献です
正確には同じく法学書院から刊行されている『合格論文ガイドブック』も試験委員のご経験のある弁理士による弁理士試験の論文式試験を扱った著作ですが、こちらはまた別の機会に紹介します (「今日のところは紹介しない」ということから何かを察してもらえればと思います汗/得られるものがあるかは、1度立ち読みを)
話を戻して、『弁理士受験新報』25号に掲載されている「前弁理士試験考査委員からのアドバイス」のほうは、平成16・17年の試験委員が平成19年1月刊行の雑誌に本試験の採点・評価について言及している点で(当時としては)ホットな内容でした
前試験委員としての守秘義務もあるから当たり障りのない内容に終始するかと思いきや、なかなか突っ込んだ言及がされています
たとえば記事には、
「意匠法の論文式試験の採点を約10名の試験委員の試験委員で分担して担当しました」 「一人当たりにして約500通を採点しなければなりませんでした」
とあります (引用における太字は僕の主観によるハイライトです、以下同じ)
当時の論文式試験の受験者数は、
平成16年:2,466人 平成17年:2,794人
だったので、受験者数が655名である令和4年とは事情が異なっているものと思われます
そうだとしても、当時は約10名の試験委員で1人あたり約500通となると、答案1通あたり2名が採点してブレを補正していたのかなとは推察できます
同様に、これも今の本試験の採点において踏襲しているかは不明であるものの、
「解答すべき内容(答案構成)と配点を決定して「採点基準表」を作成します」 「「採点基準表」には、試験終了後に公表される論点よりはるかに詳細に解答内容が規定されています」
ということが公言されています

この記事には、前試験委員のアドバイスとして、
「配点についても、(中略)小問形式の場合に、各設問ごとに配点が定められているだけでなく、解答内容の項目ごとに細かく配点が振り分けられます
「多数の試験委員で採点を行われなければならないので、試験委員による採点のばらつきを最小限に抑えるためには、このように採点基準をできるだけ細分化・定形化して明確にしなければならない」
「試験委員が採点に当たってバイブルとする「採点基準表」相当に細分化された事項の集合体であり、その個々の事項について配点が与えられています」
とあります
受験生の数が当時に比べて4分の1程度になった今の本試験の採点も、特許庁が公表している行政文書において「複数の試験委員が分担して採点を行」っているとされています
昨今の本試験の採点が今日紹介した記事の刊行当時と同様であるとは言えないものの、採点の客観性を担保するという観点からは採点基準表を作成するのは極めて妥当ですし、採点基準表を廃止する理由は見当たらないです
その採点基準表ですが、複数の試験委員による採点のブレを最小化するためには、基準は細かいほうがよいです
別の角度から言うと、論文式試験の合格のためには、自分の答案が細分化された評価にも耐えうるレベルに達していることが求められるということです
そもそも採点する答案数がピーク時の4分の1程度に激減しているのに、試験が終了してから合格発表までの期間は変わっていないわけですから、今日紹介した雑誌の記事が発表された当時よりも今のほうが1通あたりの採点に費やされる時間・労力が相対的に増えていると考えるのが自然です
また、論文式試験の合格者数が200人を切っている現状では、答案構成(≒挙がっている項目)の的確さだけでは勝負が決まらず、答案表現の緻密さで最後の優劣がついていることも想像に難くないです
端的に言って、提出した答案は細かく読まれていることを想定したほうがよいですよね
本試験における実情は受験生に通知される科目別の点数と再現答案とを照らし合わせながらより詳細に分析する必要がありますが、論文式試験の合否は相対評価で決まると出題者側が明言している以上、受験生全体の答案表現の緻密さのレベルが今後上がれば合格水準も上がってしまうことを危惧しています(一言でいうと「難化」です)
とはいえ、本試験で問われることが難しくなるという意味での難化ではなく、出題レベルは現状のまま内容の完成度が求められるという意味での難化ですから、答案練習の題材としては引き続き過去の本試験問題で必要十分だと考えています

追伸:
今日紹介した雑誌の記事は、真正なバックナンバがアマゾンで入手できるのかどうか怪しいところなのですが(汗)、内容の詳細が気になる人はぜひ原典を読んでみてください
あとにも先にも、弁理士試験の論文式試験について試験委員経験者から採点の実情が公に語られたことはないものと思われます
もし本試験の採点の実情が私的に語られているとしたら守秘義務違反ですし、仮に話されていることがあったとしても個々の受験生に伝わる時点では伝聞でしかないため、たしかな情報として伝えることはできません
「試験委員がxxと言ってた」とか「採点は〇〇らしい」っていうのは、情報源を明らかにしなくていいならテキトーなことをいくらでも言えちゃいますよね
弁理士試験の受験生は賢い人が多いので不確かな情報に惑わされることはそうないでしょうけど、情報発信者としては受験生に風説で混乱させることのないよう、今後も細心の注意を払っていきます

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